辺辺

a sight of Kesen101

           
   

         

         


紫雲石は、北上山系のごく一部でしか産出しない幻の石。
硯をつくるのに良質の貴石とされ、気仙地方では大船渡町の丸森から日頃市町の長安寺あたり、天然スレートが採れた矢作町にも鉱脈がある。
小豆色をした原石を手作業で丹念に研磨すると、紫雲状の文様が浮きあがり、何ともいえないぬくもりと風格を漂わせる。
この紫雲石にこだわり続けているのが大船渡市赤崎町の硯匠・熊谷利夫さん(77)。
硯づくり三十五年のベテランで、岩手の名工にもなっている。
よい硯の条件は、磨墨と溌墨がよいこと。
溌墨とは墨色の美しさや、のびの良さ、線質のよさを表現できる墨汁のことをいう。
「鋒鋩(ほうぼう)を立てる」という言葉がある。
鋒鋩とは刃物の切っ先を指す。
これは石の中に含まれた石英や鋼鉄などで墨をする際にヤスリの役割を果たすもので「紫雲石は鋒鋩の程合いに優れ、細やかな溌墨となる」と熊谷さん。
大船渡にはこんな逸話も残る。
鎌倉時代に一人の旅の僧が長安寺に立ち寄った。
近くを流れる川底で小豆色に輝く滑らかな石を見つけた。
それに水滴をたらし、墨をすったところ、
磨墨も早く、しかも気品のある墨滴を溌した。
旅の僧はこの石を鎌倉に持ち帰り、時の将軍に献上した。
将軍はことのほか喜ばれ、この硯石を紫雲石硯と命名。
書道家はもちろん、武士の間にも重宝がられ、鎌倉紫雲と称されたという。
文房四宝(硯、筆、紙、墨)の第一にあげられる硯。
「すずり」の語源は「墨すり」からきたらしい。
「硯は線の美しさと創造性の調和」が熊谷さんの口癖。
幅、長さ、厚さ、縁取りのバランスが硯の生命という。
実用品から工芸品、そして芸術品へ。
「つくりたいものはいっぱいあるが、後世に残るもの、誰をも納得させるようなものをつくりたい」とさまざまなデザインに挑戦しながら感性に磨きをかけている。




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Dr    大谷俊彦
イラスト  庄司暁子
デザイン 佐藤千香子

2005/5/8


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